インドの認証局eMudhraは、中間証明書8件の秘密鍵が第三者に復元可能な状態だった問題を受け、世界向けのSSL/TLS証明書事業から自主撤退すると発表した。ITmediaが伝えた。各ブラウザベンダーは該当証明書の遮断を進めている。
秘密鍵が容易に復元される設計上の欠陥
今回の問題は、eMudhraが運用する中間証明書の秘密鍵が極めて脆弱な状態で生成されていたことに起因する。2026年10月17日、研究者のウェイン氏がこの事実を報告し、当該鍵を用いて署名を行うことで脆弱性を立証した。INTERNET Watchによると、原因は2025年4月30日に実施された鍵生成セレモニーの手順にある。本来の強固な鍵セットとは別に、強度が極端に低い鍵セットが誤って生成され、それがルートストアに公開されてしまったという。GIGAZINEの報道では、侵害された秘密鍵の中には「4」という値など、わずか1バイトで生成されたものも含まれていたと指摘されている。
各ブラウザベンダーによる迅速な遮断措置
報告を受けたMozilla、Google、Apple、Microsoftは、即座に該当する中間証明書の信頼を取り消す措置を講じた。窓の杜によると、Mozillaは10月17日の報告から3時間足らずで失効証明書リスト「OneCRL」を通じたブロックを完了させている。また、iPhone Maniaは、Appleが10月19日から同社製品で証明書を信頼しない設定を適用したと報じた。これらの措置により、攻撃者が中間証明書を悪用してWebサイトになりすまし、通信を傍受するリスクを低減させている。ただし、Mac標準のcurlやpython3といった一部のコマンドラインツールについては、OSのアップデートなしでは証明書を信頼し続ける可能性があると各社が注意を促している。
eMudhraの事業撤退と収益性の低下
eMudhraのV・スリニバサン会長は、世界向けSSL/TLS事業からの撤退理由として、収益性の低下を挙げた。ITmediaの報道によれば、同事業の売上高は全体の約1%に過ぎず、データ主権やコンプライアンス要件の増加に伴うコスト増が経営を圧迫していた。また、大手事業者が証明書を無償提供する環境下で、今回の問題がSNSを通じて過度な注目を集めたことも決定打となった。同社は、既存顧客に対しては提携先が発行する証明書への無償切り替えを案内し、RSA方式のルート証明書「G1」系統の運用を通じて移行を支援する方針だ。

影響を受けない国内向け署名サービス
今回の事業撤退は、あくまで世界向けのSSL/TLS証明書事業に限られる。同社が展開するインド国内向けの電子署名用証明書(DSC)や「eSign」、企業向けPKI製品「emCA」などは、SSL/TLS事業とは異なる基盤で運用されている。そのため、これらのサービスについては今後も通常通り提供が継続される見通しだ。ITmediaによると、同社はブラウザ各社のルートプログラムに対する根本原因の報告書提出など、認証局としての残る義務を果たすとしている。

今後の証明書検証のあり方
今回の事態は、ブラウザエコシステムの外部にあるツールにおける証明書検証の難しさを浮き彫りにした。AppleやGoogleのブラウザは「Certificate Transparency(CT)」と呼ばれる仕組みを導入しており、今回の中間証明書に関連する不審な証明書発行の多くは未然に防がれていた可能性がある。しかし、CTを強制しない環境では、攻撃者が欠陥のある鍵を悪用したかどうかは現時点で不明なままだ。利用者は、OSやブラウザだけでなく、コマンドラインツールを含む環境全体のアップデートを適宜適用し、信頼できない証明書を排除する措置が求められる。